イップスは本当にメンタルだけなのか
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 「イップス=メンタルの弱さ」とは言い切れない。
- 2011年以降、映像・筋電図・手首運動の測定では、同じ「イップス」の中に不随意運動が確認される例とそうでない例が見えてきた。
- 2025年までの研究をたどり、どこまで分かっているかを整理する。
パットで手が急に動かなくなる。逆に、意図しない動きが出る。こうした現象は長く「イップス」とひとまとめにされ、ときには精神的な弱さの問題として語られてきた。
しかし、客観的に動きを測った研究を追うと、その説明だけでは収まらない。同じ「イップス」を訴えるゴルファーの中でも、不随意運動が実際に確認される人と、そうではない人がいる。
自己申告だけでは違いが見えなかった
2011年の研究では、イップスを訴える25人と対照25人、計50人のパッティングを映像、表面筋電図、手首の動きで測定した。
興味深いのは、本人の自己申告だけで二つの群を分けた段階では、動作指標に明確な差が出なかったことだ。
ところが映像を見て、不随意運動が確認された17人と、確認されなかった33人に分け直すと違いが現れた。不随意運動が確認された群では、手首の回内・回外運動が多く、前腕の屈筋と伸筋が同時に働く傾向も強かった。
「考えすぎ」が唯一の原因でもなかった
心理面を調べた2013年の研究では、イップスを訴える19人に、動作そのものへ意識を向ける条件と、注意を別へ向ける条件でパットをさせた。
もし、普段は自動化されている動きを意識的に制御し直すことがイップスの主因なら、条件によって症状に差が出るはずだった。しかし研究では、イップス行動に差は出ず、この仮説は支持されなかった。
これは心理的な要因が存在しないという意味ではない。少なくとも「考えすぎればイップスになる」という一つの説明だけでは足りない、という結果だった。
27人を測ると、5人・9人・13人に分かれた
2018年には、さらに踏み込んで型を分ける研究が行われた。27人が両手で10球、右手だけで10球をパットし、映像、前腕の筋活動、手首とパターの動きを測った。
まず両手パットの映像判定で、5人が動作特異性ジストニア型の可能性、9人が非ジストニア型のイップス、13人がイップスなしに分類された。ここから筋活動と片手パットの結果を見ると、5人と9人の違いがさらに見えた。
両手パットでは、ジストニア型とされた群で、イップスが出た瞬間に前腕の屈筋・伸筋や回内・回外に関わる筋が同時に収縮する組み合わせが有意に多かった。そして右手だけで打たせると、ジストニア型ではイップスの回数も、同時収縮を伴うイップスも増えなかった。ところが非ジストニア型では、右手だけにしたときにイップスの回数と、同時収縮を伴うイップスの両方が有意に増えた。
ここで大事なのは、この「5人」がイップス全体の割合を示す数字ではないことだ。研究は27人という小規模な標本で、しかも競技の重圧がない屋内環境だった。人口全体でそれぞれの型が何割なのかは、2026年時点でも確定していない。
また、この分類は臨床診断そのものでもない。研究者が客観的な動きの違いを見分けるための方法だ。
その後も「複数の型」という見方は残った
2021年のレビューでは、スポーツに関連する動作特異性ジストニアの一つとしてゴルフのイップスが整理された。ただし、すべてのイップスがジストニアという結論ではなく、病態の仕組みは十分に解明されていないとされた。
同じ年、日本の熟練ゴルファーを対象にした大規模な質問票調査では、1,457人のうち39%がイップス経験ありと回答した。これは自己申告の経験率であって、ジストニア型が39%という意味ではない。
2024年のメイヨー・クリニックの臨床説明も、一部には特定の筋に起こる焦点性ジストニアがあり、別の選手では強い競技不安によるチョーキングが技能を損なうと整理している。不安が動作障害の影響を強める場合もある。
2025年の小規模な査読研究でも、身体的なジストニア型、心理社会的なチョーキング型、その両方が関わる混合型という整理が研究背景として使われた。
競技で出るイップスを実験室で捕まえる難しさ
2018年の分類研究は競技プレッシャーのない屋内で行われた。メイヨー・クリニックも、イップスは競技条件で出やすく、診察や検査の場では症状を再現できない場合があるとしている。
そのため、練習では問題がなく大会だけで症状が出る人と、練習でも明確な不随意運動が出る人を、同じ測定条件だけで完全に分けられるわけではない。
2026年時点で標準化された一つの診断検査もない。症状の説明、神経学的な診察、実際のパッティング映像などを組み合わせて評価するのが現在の臨床的な考え方だ。
イップスは一つの故障名ではない
イップスを一律に「メンタルの弱さ」とするのも、反対に一律に「神経の病気」とするのも、現在の証拠より先へ行きすぎる。
出典:movementdisorders.onlinelibrary.wiley.com / pubmed.ncbi.nlm.nih.gov(2・3・4・5) / mayoclinic.org(2) / frontiersin.org
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