同じカート申請が真逆になった理由
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 2019年、ジョン・デーリーのカート申請はPGA選手権では承認され、全英では拒否された。
- 同じ選手なのに結論が分かれた背景には、米国側の個別医学審査、2001年の判決が示した個別判断の考え方、全英が重視した歩行とロイヤル・ポートラッシュの地形があった。
- PGA of Americaは2019年5月、デーリーのカート使用を承認した。
2019年、ジョン・デーリーは同じ「カートを使って競技したい」という申請で、2つのメジャーから正反対の答えを受けた。
5月のPGA選手権では使用を認められ、7月の全英では認められなかった。
一見すると「米国は許可、英国は拒否」という制度や文化の違いに見える。だが、実際の判断材料を追うと、それだけでは説明できない。主催者も審査の仕組みも違い、全英では会場そのものの条件まで理由に入っていた。
PGA選手権は本人の状態を個別に審査した
PGA of Americaは2019年5月、デーリーのカート使用を承認した。
PGA側の説明では、デーリーは右膝の変形性関節症について必要な資料を提出した。申請は、医療専門家を含む委員会が審査し、カート使用を認める条件を満たすと判断された。
ここで重要なのは、PGA選手権が「歩かなくてもよい大会」になったわけではないことだ。
PGA of Americaの選手権では通常カートを認めない場合でも、障害のある選手やキャディーから申請があれば、障害を持つ米国人法に沿って個別に評価する仕組みがある。2026年に確認できる現行方針でも、この個別審査の形は続いている。
つまり2019年のデーリーへの許可は、全選手へ一律に認めたものではなく、本人の状態を審査したうえでの判断だった。
その背景にある2001年の判決
米国でゴルフ競技とカート利用を考えるうえで大きな基準になったのが、2001年の「PGA TOUR対ケーシー・マーティン」判決だ。
米連邦最高裁は、障害のあるケーシー・マーティンについて、カート使用を認めても、その人の事情では競技の本質を根本的に変えないと判断した。さらに、マーティンがカートを使うことで健常選手より競技上有利になるとも認めなかった。
ただし、この判決は「ゴルフでは歩行を求めてはいけない」としたものではない。
最高裁が重視したのは、本人の障害や競技への影響を個別に見ることだった。しかも当事者はPGA TOURであり、2019年のPGA選手権を主催するPGA of Americaとは別組織だ。
まして、この米国の判決がそのまま全英の判断を決めるわけでもない。
全英は歩行だけでなく会場条件も理由にした
2019年7月、全英を運営するR&Aの選手権委員会は、デーリーのバギー使用申請を拒否した。
公式声明で示された理由は一つではない。
R&Aはまず、歩くことを全英の重要な一部であり、リンクスゴルフの伝統の中心だと位置づけた。そして、可能な限り全選手へ同じ挑戦を課す必要があると説明した。
さらに会場のロイヤル・ポートラッシュには急斜面や大きな起伏があり、バギーの使用に適していないことも理由に挙げた。クラブ自体もバギー使用を認めていないとしている。
つまり全英の拒否は、「歩くのが伝統だから」の一言では終わらない。大会が歩行をどう位置づけているかに加え、全選手へ同じ条件を課す考え方と、会場の地形・施設方針まで組み合わさった判断だった。
同じ選手でも、線引きは同じにならなかった
この2件から分かるのは、ゴルフで「歩くこと」が常に絶対条件だとも、逆に障害があれば必ずカートを使えるとも言えないことだ。
PGA選手権では、本人の医学的資料を個別に審査し、合理的配慮としてカートを認めた。全英では、歩行を大会の重要な要素としたうえで、全選手への同一の挑戦とロイヤル・ポートラッシュの地形・施設条件を重ね、申請を拒否した。
PGA TOUR、PGA of America、R&Aはそれぞれ別の組織で、同じ一つのルールに従って同じ審査をしたわけではない。
だから2019年の正反対の結論は、「米国法対英国の伝統」という単純な対立ではない。
同じジョン・デーリー、同じ年、同じカート申請。それでも結論が分かれたのは、それぞれの大会が何を競技の一部と考え、どのように個別事情を審査し、さらに会場条件をどこまで判断材料へ入れるかが違っていたからだ。
出典:The Open / espn.in / law.cornell.edu / govinfo.gov / pgatournaments.com / sportsmole.co.uk