「ゴルフを処方」は薬の代わりではない スコットランド5クラブに広がった医療とのつなぎ方
GOLF DNA編集部🇬🇧

3行まとめ
- スコットランド・ファイフの「ゴルフを処方する」取り組みは、医師が薬の代わりにゴルフを命じる制度ではない。
- 一次医療や地域支援から6〜8週間の無料ゴルフ体験へ人をつなぐ社会的処方で、第2期は5施設へ広がり、2024年にも拡張した。
- 2026年時点の研究も中心は接続経路・受容性・実行可能性で、疾病の治療効果やファイフ外への大規模展開が証明されたわけではない。
「ゴルフを処方する」と聞くと、医師が薬の代わりに「ゴルフへ行きなさい」と命じる制度のように見える。
スコットランド・ファイフで始まった取り組みの実態は違う。狙いは、医療や地域支援の窓口から、無料のゴルフ体験へ人をつなぐことだ。
いわゆる「社会的処方」で、ゴルフそのものを特定の病気の治療薬として扱う仕組みではない。面白いのは、クラブやスイングではなく、「診療所で話を聞いた人を、実際の活動の場までどう運ぶか」が事業の中心に置かれている点だ。
2022年は約30人、4施設で6〜8週間の無料体験
初期試行はファイフの4施設で行われ、参加者は約30人。期間は6〜8週間で、費用は無料だった。
入口になったのは、参加するかかりつけ医の診療所や一次医療の専門職、地域連携担当者などだ。そこで対象者を見つけ、ゴルフ場の活動へつなぐ。
つまり「医療機関がゴルフを治療として処方する」というより、医療や地域支援が、運動や交流の場への接続役になる。
この違いは重要だ。公開された評価で中心になっているのは、特定の病気がどれだけ改善したかではなく、紹介経路が機能するか、参加者に受け入れられるか、現場で続けられる仕組みかという点だった。
最初に見えた壁は、ゴルフ場ではなく「紹介する時間」
試行で浮かんだ課題の一つが、医療側の時間だった。
一次医療からこの仕組みへ人を紹介する方法を調べた評価では、臨床スタッフがプログラムを説明し、案内するための時間が主要な障壁として挙げられた。
そこで候補に上がったのが、本人が直接申し込む方法、臨床職ではないスタッフから案内する方法、地域サービスを経由する方法だった。
ゴルフを無料にして場所を用意するだけでは、人は自動的には来ない。医療の現場で誰が説明し、誰が申し込みまでつなぐのか。その小さな手間が、仕組み全体の詰まりやすい場所になった。
2023年は第2期へ、参加施設は5カ所に
ファイフ・ゴルフ・トラストの運営報告では、2023年5月に第2期が実施されたことが記録されている。
同年の第2期には、クルーニー、ダニキア、ダンファームリン、エルムウッド、セントアンドリュースの5施設が参加した。
初期の4施設・約30人で終わった一度きりの企画ではなく、翌年も次の試行へ進んだことになる。
セントアンドリュース大学は2024年3月、2回の試行で参加者が約50人、実施先がファイフの5クラブに広がったと紹介している。
さらにセントアンドリュース大学の2024年年次レビューは、英国の公的医療を担うNHSファイフと連携する「Golf for Health」が2024年に拡張したと記している。
第2段階で確認できる接続網は、7診療所・4地域連携担当・3地域サービス
その後の第2段階では、ゴルフ場だけでなく「紹介する側」の網も広げられた。
セントアンドリュース大学の現行EAGLEページが第2段階について記録している接続網は、7つのかかりつけ医診療所、4人の地域連携担当者、3つの地域サービス、そしてファイフの5クラブだ。
初期試行で問題になった「臨床スタッフだけに紹介作業を背負わせる」形から、地域側も含めて入口を増やそうとしていることが分かる。
追加の2回の試行後には、第2段階の質的評価も完了した。同ページでは、持続可能なプログラムへ向けて分析と改善を進める段階だと説明している。
ここまでを見ると、2022年の小規模な試行から、2023年の第2期、2024年の拡張へと継続してきたことは確認できる。
2026年も評価の中心は「治るか」ではなく「つながるか」
2026年3月に公表された査読論文も、ファイフの5クラブで行われた試行を対象にしている。プログラムを完了した9人へのグループインタビューを含み、結論では、一次医療や地域支援からゴルフへつなぐ経路には、なお改善が必要だとされた。
ここでも焦点は、ゴルフが特定の疾病を治療できるかを証明することではない。参加者が活動へたどり着けるか、その仕組みを現実の医療・地域支援の中へ組み込めるかという評価だ。
2026年時点で、公開された一次資料から確認できる到達点はファイフ内の第2段階まで。ファイフ外へ正式に大規模展開した記録や、2025〜2026年に新たに参加した人数の総計は公表確認できていない。
これは「その後は実施されていない」という意味ではない。公開情報で確認できる範囲が、そこまでということだ。
「処方」という名前より、医療とゴルフ場の間をどう埋めるか
この取り組みで最も興味深いのは、「ゴルフに健康効果がある」という一般論ではない。
診療所で運動を勧めても、実際の活動までつながらなければ何も始まらない。その間を、無料の体験、ゴルフクラブ、地域連携担当者、地域サービスまで含めた経路として設計しようとしている。
初期試行では4施設・約30人。翌年は5施設で第2期へ進み、2024年には拡張。現在確認できる第2段階では、7診療所、4人の地域連携担当者、3地域サービス、5クラブが接続網に入った。
一方で、2026年の研究でも紹介経路の改善は課題として残る。疾病への治療効果や英国全体への正式展開は、公開資料からは確認できない。
「ゴルフを処方する」の実態は、薬の代わりにゴルフを渡すことではない。医療の助言を、実際に体を動かし、人と接する場所まで切れずにつなぐ。その接続方法を、ファイフで少しずつ広げながら検証している。
出典:news.st-andrews.ac.uk / The R&A(2・3・4) / fifegolftrust.co.uk / sapc.ac.uk / scottishgolf.org / medicine.st-andrews.ac.uk(2・3) / st-andrews.ac.uk / research-portal.st-andrews.ac.uk