最大144本の映像、200超の国・地域へ 米男子ツアーが巨大制作拠点を作った理由
GOLF DNA編集部🇺🇸

3行まとめ
- 米男子ツアーは2025年、16万5000平方フィートの制作拠点を正式稼働した。
- 最大144本の映像、7スタジオ、8制作室、22万3000時間の映像資産を一拠点へ集め、2026年は国際向け映像を200超の国・地域へ届けている。
- 毎週会場が変わる競技で、なぜ制作機能を本部へ集約したのかを追う。
毎週、試合会場は変わる。それなのに米男子ツアー(PGA TOUR)は、映像づくりの中心を一つの巨大拠点へ集めた。
2025年1月1日に正式稼働した「PGA TOUR Studios」は、16万5000平方フィート、3階建て。7つのスタジオ、8つの制作室を備え、最大144本のカメラ映像やライブ映像を扱える。保管する映像は17万本超、合計22万3000時間に及ぶ。
施設の大きさだけなら、巨大なテレビ局を作った話に見える。だが本質はそこではない。米男子ツアーが変えたのは、毎週別のコースから届く映像を、テレビ、配信、海外向け、短い動画、過去映像まで一つの制作基盤で扱う仕組みそのものだ。
旧拠点は1スタジオ、新拠点は7スタジオ
変化は、旧拠点との比較で分かりやすい。
2024年の公式資料によると、それまで20年以上使われてきた制作拠点は3万5000平方フィートで、スタジオは1つ、制作制御室は2つ。扱うカメラも2〜3台規模だった。
新しいPGA TOUR Studiosは16万5000平方フィートに拡大し、計画段階で7スタジオ、8制作制御室、最大144本のカメラまたはライブ映像を扱える設計とされた。2025年の正式稼働時にも、7つのLEDスタジオ、8制作室、8音声制御室、最大144本の映像を扱う構成が説明されている。
単なる引っ越しではない。制作できる量と種類を大きく増やす再設計だった。
背景には、ツアー側が担う映像制作の範囲が広がったことがある。PGA TOURは2022年、NBC、CBS、Golf Channelが制作する共同主催大会の技術基盤に関する責任を引き受け、ライブ配信「PGA TOUR LIVE」はESPN+へ移行した。欧州ツアーの制作会社にも少数出資している。
放映権を外部へ渡して終わるのではなく、自ら扱う制作基盤が増えた。その受け皿として、新しい本部スタジオが作られた。
テレビだけではない。「50超の媒体」を一拠点で作る
正式稼働時、PGA TOUR Studiosが担うとされたのは米男子ツアーのテレビ中継だけではない。
PGA TOUR LIVE、シニアのPGA TOUR Champions、下部のKorn Ferry Tourに加え、50を超える独自媒体、SNS、デジタル向けコンテンツの制作を集約した。
同じ大会でも、テレビで長時間見る人、スマートフォンで短い動画を見る人、海外向けの実況で見る人では必要な映像が違う。一つの試合から複数の形へ作り分ける仕事が増えたことで、制作拠点の役割も「中継番組を作る場所」だけではなくなった。
さらに、新施設には17万本超、22万3000時間の映像アーカイブが収容された。過去のショット、選手、名場面を別の番組やデジタル制作へ使うための映像資産まで同じ基盤に集まっている。
海外向け中継は「米国版の補足」から独立制作へ
この集約化が分かりやすく表れたのが、2025年の国際向け映像だ。
それまで20年以上使われてきた国際向けの仕組みは、米国内向けの中継映像を補う形だった。2025年のザ・プレーヤーズから始まった新しい「World Feed」は、海外向けに独立して制作する方式へ変わった。
専用の実況、専用グラフィックス、現地レポーターを用意し、対象大会では最大6台の専用カメラも使う。米国内向けと同じ映像へ言葉だけを載せ替えるのではなく、海外視聴者向けに別の中継を組み立てる仕組みになった。
2026年1月のPGA TOUR公式発表では、このWorld FeedはPGA TOUR Studiosから制作され、200を超える国・地域へ届けられている。
巨大スタジオを作った理由が、ここで具体的になる。毎週違う会場から来る映像を一度中央へ集め、視聴先に応じて別の形へ組み直すためだ。
それでも「全部を本部で作る」わけではない
中央集約といっても、現地制作が消えたわけではない。
2026年のザ・プレーヤーズでは、英Sky SportsがPGA TOUR Studiosへ直接接続し、追加のカメラ映像や遠隔リプレー、共有する技術資源を利用した。一方で、World Feedには現地の専用カメラやレポーターも残っている。
つまり現在の形は、各大会の現地制作を本部へ完全移転するものではない。現地でしか撮れない映像や取材と、本部の制作室、過去映像、配信設備を接続する形だ。
2026年2月のジェネシス招待でも、PGA TOUR LIVE、PGA TOUR Radio、World Feedなど、PGA TOUR Studios系の制作物が現行の視聴手段として案内されている。2025年の開業時だけの実験ではなく、翌年も複数媒体の中央制作基盤として動いている。
巨大化で「安くなった」「視聴者が増えた」とはまだ言えない
ここまでの変化は確認できるが、施設の成功を数字で評価する材料はまだ限られる。
今回の一次資料では、建設費や総投資額、旧拠点から移ったことで制作費や人員がどれだけ減ったのかは確認できない。World Feed開始後に視聴者数、視聴時間、放映権収入がどれだけ増えたかという因果も示されていない。
だから「巨大スタジオでコスト削減に成功した」「海外視聴者が増えた」とまでは言えない。
確認できるのは、制作能力と役割が明確に広がったことだ。
旧拠点は1スタジオ、2制作制御室、2〜3カメラ規模。新拠点は7スタジオ、8制作室、最大144本の映像を扱い、ライブ配信、下部ツアー、50超のデジタル媒体、22万3000時間の映像資産、国際向け独立中継まで同じ制作基盤に載せた。
毎週会場が変わるからこそ、制作拠点まで毎週分散させるのではなく、映像を受け取って作り分ける中枢を固定した。
2026年の現在地を見ると、PGA TOUR Studiosは「大きなスタジオ」ではなく、現地から届く1打をテレビ、配信、海外向け、デジタルへ分岐させる中継の中枢になっている。施設の規模より大きく変わったのは、ツアー自身が映像をどう作り、どう持ち、どう世界へ配るかという構造だ。