現実では30球中14回入れた熟練者、VRではカップインの優位を確認できず パット実験が示した再現の壁
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 現実の10フィートパットでは熟練者が平均30球中14.0回を沈め、他群を上回った。
- ところが同じ参加者が仮想現実で打つと熟練者の平均は1.2回となり、群間差は確認されなかった。
- 2025年の比較実験と2026年の後続研究から、仮想空間でパットの「上手さ」をどこまで再現できるのかを追う。
現実のグリーンでは、上手い人ほど明らかに入った。ところが仮想現実に移ると、その差を統計的に確認できなくなった。
2025年に発表された研究は、初心者44人、ゴルフ以外の競技者14人、ハンデ10未満の熟練ゴルファー5人を対象に、現実と仮想現実の両方で10フィートのパットを30回ずつ打たせた。
結果はかなり極端だった。現実での平均カップイン数は、低技能の初心者5.33回、高技能の初心者10.30回、他競技者9.40回、熟練者14.00回。熟練者は他の3群を上回った。
ところが仮想現実では、同じ順に0.71回、0.38回、0.90回、1.20回。熟練者を含め、群同士のカップイン数に有意な差は確認されなかった。全ての群で、現実より仮想現実の方がカップイン数は有意に少なかった。
これは「仮想現実に入ると熟練者の技術が消える」という意味ではない。この実験で確認されたのは、少なくとも使われた仮想環境では、現実で見えた熟練者の優位を同じ形では再現できなかった、ということだ。
現実では効いた「クワイエットアイ」も、仮想現実では関係が崩れた
研究は結果だけでなく、打つ前の視線も測っている。
注目されたのが、ストローク直前に視線を目標付近へ安定させる「クワイエットアイ」だ。現実環境の熟練者では、クワイエットアイが1秒長いごとに、カップからの放射誤差が7.51センチ小さくなる関係が予測された。
一方、仮想現実ではクワイエットアイの長さと誤差の間に同じ関係は確認されず、熟練度との組み合わせでも有意な関係は出なかった。
カップインだけではなく、現実で熟練者の精度と結びついていた視線行動まで、仮想空間では同じ働きを示さなかったことになる。
見えていたのは仮想世界、手には現実の打感が返ってこなかった
現実側の試験は平坦な人工グリーンで行われた。仮想現実側ではHTC Vive Pro Eyeを装着し、実物のクラブに追跡器を付けてストロークを計測した。視覚と聴覚の情報はあったが、ボールを打った時の触覚フィードバックはなかった。
著者らは、触覚の欠如、知覚と動作の結び付きの変化、視覚疲労、仮想現実への慣れ不足などを結果の説明候補として挙げている。
ただし、この研究はそれぞれの要因を一つずつ変えて検証した実験ではない。「触覚がないから熟練差が消えた」と原因を一本に決めることはできない。
誤差の指標でも、仮想現実では全群が現実より悪化した。熟練者が高技能初心者より小さい差は残ったものの、現実のような一貫した熟練者優位は確認されていない。
2026年の研究は「現実の物を残す」方向を試している
では、仮想現実のパット練習そのものが役に立たないのか。そこまでは言えない。
2025年の別研究では初心者46人を対象に、クワイエットアイの訓練と仮想現実・現実練習を組み合わせ、現実のパット改善と1週間後の保持を調べている。ただし、通常の仮想現実練習だけで長期的に現実へ技能が移ることを示した研究ではない。
さらに2026年には、36人が完全な仮想現実と、実物のクラブ・ボール・手足を見せる環境を比較した査読研究が出た。実物を残した環境の方が、完全な仮想現実より即時のパット成績、作業負荷、乗り物酔いの指標で良好だった。
この研究は2025年の熟練者5人の結果やクワイエットアイを直接再現したものではなく、長期練習の転移試験でもない。それでも、仮想化を強めれば強めるほど現実の技能を忠実に再現できる、という単純な構図ではないことを示す材料にはなる。
さらに2026年8月24日には、初心者48人が仮想環境で4回の運動イメージ練習を行い、パット結果の映像フィードバックを受ける研究が査読誌に掲載された。練習前・練習後・24時間以上後の実地テストでは全群でカップイン率が改善した一方、平均放射誤差などには効果が確認されなかった。これは実際にVR内でパットを打ち続ける練習ではなく、運動イメージと結果提示を組み合わせた研究で、2025年研究の熟練差を直接追試したものではない。
現時点で言えるのは、特定の触覚なし仮想環境では、現実で明確だった熟練者のカップイン優位と視線―精度の関係を同じ形で再現できなかったこと。そして2026年9月18日時点でも、その差が長期練習で埋まるのか、熟練者でも別機器なら再現するのかを直接確かめた研究は確認されていない。
仮想現実でパットを再現する時に問われるのは、画面がどれだけ本物らしいかだけではない。クラブ、ボール、手足、打感など、現実の技能を成立させている情報をどこまで残すか。その境界が、次の検証対象になっている。