慣性モーメント20%増なのに、トウ打点は0.59度外へ 深い重心が生んだパターの逆転現象
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 360gの同じ調整式パターヘッドで、慣性モーメントを約20%高めた構成は重心も11.2mmから25.2mmへ深くなった。
- 2020年の振り子試験では15mmトウ打点の出球誤差が0.23度から0.59度へ拡大。
- 高慣性化だけでなく、深い重心が強めるギア効果まで含めて設計する必要があることを示す一方、球速保持はこの試験では直接測っていない。
「高慣性モーメントなら、芯を外しても方向が安定する」。パターでもそう考えたくなるが、2020年に発表された物理試験では、少し逆説的な結果が出た。
同じ360グラムの調整式ヘッドで作った2構成のうち、慣性モーメントが約20%高い構成は、15ミリのトウ打点でボールが平均0.59度トウ側へ出た。低い構成は0.23度だった。
高慣性なのに、方向誤差は小さくならなかった。研究者が注目したのは、慣性モーメントと同時に変わっていた「重心の深さ」だった。
慣性モーメントは3997から4790へ、重心は11.2ミリから25.2ミリへ
実験では360グラムの調整式パターヘッドを2つの重量配置にした。
構成Aは重心深度11.2ミリ、慣性モーメント3997 g・cm²。構成Bは重心深度25.2ミリ、慣性モーメント4790 g・cm²で、Bの慣性モーメントはAより約20%大きかった。
3.6mphで動く振り子装置を使い、ディンプルのないボールを中央、ヒール側15ミリ、トウ側15ミリの3か所で、それぞれ10球ずつ打った。測定の中心は、打点を外したときにボールがどちらへ、何度ずれて出るかだった。
中央打点では両構成とも平均0.00度。ところがトウ側15ミリでは、Aが+0.23度±0.18度、Bが+0.59度±0.10度だった。数値の「±」は95%信頼区間である。
ヒール側15ミリでも、Aは-0.58度±0.13度、Bは-0.72度±0.18度。高慣性側のBは、オフセンター打点で必ず方向誤差が小さくなる、という結果にはならなかった。
高慣性の効果より、深い重心のギア効果が上回った
この実験で重要なのは、AとBで慣性モーメントだけを変えたわけではないことだ。慣性モーメントを3997から4790へ高めるのと同時に、重心も11.2ミリから25.2ミリへ大きく後方へ動いている。
研究者の数理モデルでは、オフセンター打点の出球方向は、打点のずれ、重心深度、慣性モーメントなどの組み合わせで決まる。高い慣性モーメントはヘッドの回転を抑える方向に働く一方、深い重心はギア効果を大きくする。その組み合わせでは、Bは高慣性化による方向安定の効果より、深い重心によるギア効果の方が強く表れたと著者らは説明している。
モデルが予測した15ミリ打点の出球方向も、Aがヒール-0.30度、トウ+0.30度、Bがヒール-0.56度、トウ+0.56度。実測のトウ側はA+0.23度、B+0.59度で、この傾向と近かった。
つまり、この2構成から読めるのは「慣性モーメントが高いほど曲がる」ではない。慣性モーメントを高める過程で重心が深くなれば、方向面では別の作用が強くなることがある、という設計上のトレードオフだ。
「高慣性だから球速も残った」とは、この試験からは言えない
ここは結果を読み違えやすい。
この2020年研究は、ボール速度を均一化するフェース特性を前提にしているが、AとBそれぞれについて、中央打点とトウ打点の球速やヘッド回転量の実測値を報告していない。
したがって「高慣性側は球速をより保持したが、方向だけ悪化した」とまで実測事実として書くことはできない。
同じクリーブランドゴルフの研究者による2018年の別試験では、同じ質量特性のヘッドでフェースのミーリングを変えると、中央値の球速が5.61mphから5.39mphまで約4%変わり、可変ミーリングでオフセンター時の転がりを均一化できることが示されている。2020年研究の「球速を均一化するフェース」という前提には関連するが、今回のAとBの球速差を測ったデータではない。
実測とモデルがきれいに一致しなかった部分もある
トウ側ではモデルと実測が比較的近かった一方、ヒール側では差が大きかった。
Aのモデル予測は-0.30度に対して実測-0.58度、Bは-0.56度に対して実測-0.72度だった。著者ら自身も、試験設定や測定の不整合が影響した可能性を挙げ、打点と出球方向が常に比例するのか、打点速度から独立しているのかを含めて追加検証が必要としている。
さらに、この実験では慣性モーメントと重心深度を同時に変えているため、0.59度という結果の何割を重心深度、何割を慣性モーメントが生んだかを完全には分離できない。
著者3人はいずれもクリーブランドゴルフ所属で、論文では外部資金なし、利益相反なしと申告している。同じ2構成を独立研究者がそのまま再現した試験は、今回の調査では確認できていない。
「高慣性」の一語だけでは、パターのミスへの強さは決まらない
この研究が面白いのは、高慣性パターの優劣を決めたことではない。
同じ360グラムのヘッドでも、慣性モーメントを約20%高めた構成では重心が14ミリ深くなり、その組み合わせで15ミリのトウ打点の出球誤差が0.23度から0.59度へ増えた。高慣性化という一つの数字だけでは、オフセンター時の方向特性を説明し切れなかった。
実験は振り子、ディンプルなしボール、各条件10球という限定された物理試験で、実際のゴルファーのストロークやスコア、市販パター全般の優劣を調べたものではない。
それでも設計を見る上では一つの示唆が残る。パターの「ミスヒットへの強さ」は、慣性モーメントの大きさだけではなく、重心をどこに置き、フェースが速度をどう均一化し、その組み合わせが出球方向へ何を起こすかまで見なければ分からない。