散水設備は芝病害を運ぶのか 10コースで水源と散水ヘッドからピシウム類を検出
GOLF DNA編集部🇺🇸

3行まとめ
- ミズーリ州とカンザス州の病歴がある10コースを2年間調べると、表流水を使う灌水系では水源と散水ヘッドの双方からピシウム類が検出され、各システムで少なくとも3種が確認された。
- ただし、種まで確定できた配列に既知のクリーピングベントグラス病原種は含まれず、病原性試験も未実施。
- 「散水系は接種源候補」と「散水が発病原因」は分けて読む必要がある。
芝の病気を考えるとき、目が向きやすいのはグリーンの表面だ。ところが、池などの水源から芝へ水を届ける散水設備にも、病原体候補が入り込んでいる可能性がある。
米国ミズーリ州とカンザス州で行われた研究は、ピシウム病の履歴がある10のゴルフ場を2018〜2019年の2年間追い、水源と散水ヘッドの両方から採水した。そこで確認されたのは、「灌水系にピシウム類が存在し、移動経路になり得る」という事実だ。
一方、この研究だけで「散水したから芝が病気になった」とは言えない。ここを分けて読むと、研究の面白さが見えてくる。
水源だけでなく、散水ヘッドからも調べた
調査は4月、7月、10月に実施された。水源では取水口に近い場所から2リットル、散水側では複数のヘッドからグリーン上の滅菌容器へ計3リットルを採取した。
検出には、ピシウム類を誘引して調べる方法と、膜で水中の微生物を集める方法の2種類を併用した。得られたものはITS領域の遺伝子配列で確認された。
解析された511配列のうち453が、ピシウム類または近縁のグロビスポランギウム類と同定された。表流水を使っていた灌水系では、2年間を通じて各システムで少なくとも3種のピシウム類が検出された。
つまり、池などの水源だけを見て終わりではない。実際に芝へ水を届ける散水ヘッド側でも、複数のピシウム類が確認された。
水源と散水ヘッドで、同じ顔ぶれではなかった
興味深いのは、水源と散水ヘッドでまったく同じ結果にならなかったことだ。
平均的な配列数は採水地点による有意差が確認されなかった一方、種の構成には違いがあった。1サンプルで確認された種数の最大は、水源側が4種、散水ヘッド側が5種。多様性は散水ヘッド側で高く、ヘッド側だけで見つかった種や系統もあった。
検出方法でも結果は変わった。1つの方法だけで拾われたサンプルもあり、両方で検出されたサンプルもある。研究では、手法によって拾いやすい種が異なることも示されている。
時期による違いもあり、ピシウム類の頻度と多様性は2019年4月が最も高かった。水が流れているから、同じ種類が均一に運ばれている――という単純な図ではなかった。
では、散水が病気を起こしていたのか
ここが最も重要だ。
研究で「見つかったこと」と、「そのピシウム類が芝へ感染し、病気を起こしたこと」は別である。
種レベルまで確定できた少数の配列には、クリーピングベントグラスの既知病原種は含まれていなかった。根や地際部の腐敗に関係する既知種を含む系統は検出されたものの、この研究では病原性試験を行っていない。
そのため、著者らが置いた結論も慎重だ。ゴルフ場の灌水水を、ピシウム類の接種源になり得る「潜在的な供給源」と位置づける一方、実際の一次感染や発病へどこまで寄与するかは今後の研究課題としている。
言い換えれば、「散水設備の中に病原体候補がいる」は研究で確認された。しかし、「その散水が今回の芝病害を起こした」までは確認されていない。
処理水で見つからなかった1コースも、答えにはならない
10コースのうち1地点では、ミズーリ川由来の塩素処理された上水を使っており、そこではピシウム類が検出されなかった。
この結果だけを見ると、処理水へ替えれば問題が解決するようにも見える。しかし、これは1地点の観察にすぎない。研究でも、処理水一般の安全性や病害防止効果を証明したわけではない。
同様に、池や表流水を使うすべてのコースで病害リスクが高いと結論することもできない。調査対象は、もともとピシウム病の履歴がある10コースだった。一般のゴルフ場でどの程度の頻度で同じことが起きているかを示す設計ではない。
見るべき場所が「芝面だけ」ではなくなった
この研究が広げたのは、病害を見る場所だ。
水源と散水ヘッドの双方でピシウム類が確認され、灌水系が移動経路の候補になり得るなら、病害を考えるときに芝面だけを見るのでは足りない可能性がある。
それでも、現段階で言えるのは「経路候補」までだ。水処理や紫外線などの対策も、病原性と発病への寄与が確かめられて初めて効果を評価できる。
2018〜2019年の調査をまとめた2022年の論文が示したのは、散水設備を犯人と決めることではない。水を運ぶ設備そのものも、病原体候補の動きを調べる対象に入れる必要がある、という視点だった。