テレビの前から届いた1通のメール ゴルフの「視聴者判定」が消えた理由
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 2017年ANAインスピレーションで、視聴者メールをきっかけにレクシー・トンプソンへ前日の行為を理由とする4罰打。
- その年、USGAとR&Aは映像の「裸眼」基準を導入し、2018年から視聴者通報を判定手順から外した。
- 2026年現在も映像は使うが、責任を無数の視聴者ではなく競技委員会側へ置く設計が残っている。
テレビでゴルフを見ていて、「今の、ルール違反じゃない?」と思ったことがある人はいるだろう。
いまなら、その疑問を大会へメールして判定を動かす仕組みは基本的にない。だが、ほんの10年ほど前までは、視聴者から届いた情報が実際に優勝争いを揺らすことがあった。
象徴的なのが、2017年のANAインスピレーションだ。
前日のプレーが、翌日の優勝争いに飛び込んできた
最終日の4月2日。LPGAはテレビ視聴者からメールを受け取った。
内容は、レクシー・トンプソンが前日の第3ラウンド17番で、マークして拾い上げたボールを正しい位置へ戻していなかったのではないか、という指摘だった。
LPGAの競技委員が映像を確認した結果、当時の規則で誤った場所からプレーしたことによる2罰打。さらに、その罰打を含まないスコアカードを前日に提出していたため、当時のスコアカード規則でも2罰打。合計4罰打が最終ラウンドの途中で加えられた。
トンプソンが知らされたのは12番と13番の間だった。
それでも追いつき、ユ・ソヨンとのプレーオフまで進んだが、最後は敗れた。
ここで大事なのは、「テレビ視聴者が罰を与えた」わけではないことだ。視聴者のメールはきっかけで、判定したのはLPGAの競技委員会だった。
ただし、問題は残った。
中継で何度も大写しになるトップ選手と、ほとんど画面に映らない選手では、同じ競技なのに外部からチェックされる密度が違う。しかも高精細映像やスロー再生なら、現場の肉眼では分からないほど細かな動きまで後から拾えてしまう。
ゴルフのルールが、テレビ技術の性能に引っ張られ始めていた。
事件の23日後、映像の使い方にブレーキがかかった
2017年4月25日、USGAとR&Aは映像証拠の扱いを制限する新しい判断基準を即時導入した。
柱は2つあった。
ひとつは「裸眼」の基準。映像では見えても、人間の目では合理的に確認できなかった事実なら、その映像だけを根拠に違反認定しない。
もうひとつは、ルール上の位置や場所を決めるときに、選手が合理的な判断をしていれば、その判断を尊重するという考え方だった。
つまり、「4K映像を何十回も拡大して初めて分かる1ミリ」を、選手だけが背負う仕組みにしない方向へ動いた。
同時にUSGAとR&Aは、LPGA、PGA TOUR、欧州ツアーなどを含む作業部会を設け、視聴者からの通報そのものも検討した。
2018年、視聴者通報を“判定の窓口”から外した
結論はその年の12月に出た。
2018年1月1日から、放送される大会では競技委員会側が中継映像を能動的に監視する一方、視聴者からの電話、メール、メッセージを受け付け、監視し、追跡するための手順は設けないことになった。
「映像を見ない」へ変わったのではない。
むしろ逆だ。大会側が見る。
責任の置き場所を、「世界中の視聴者の誰かが気づくかもしれない」から、「競技委員会が自分たちで確認する」へ移したのである。
同時に、知らなかった罰打が後から判明したときに、元の罰に加えてスコアカードの追加罰まで重なる仕組みも見直された。2018年はローカルルールで対応し、その後の規則改定へ組み込まれた。
2026年のルールにも、2017年の問題意識は残っている
現在のR&A規則20.2cにも、「裸眼」の基準は残っている。
映像でしか見えず、肉眼では合理的に確認できなかった事実は、原則として映像証拠から除外する。
また現行規則3.3b(3)では、選手がスコアカードを返した時点で知らなかった罰打が後から判明した場合、競技終了前なら本来の罰打を加えてスコアを修正する。昔のように、それだけを理由としてさらに別のスコアカード罰を重ねる形ではない。
もちろん、映像判定そのものが消えたわけではない。競技委員会は今も映像を使うし、現場の証言など信頼できる情報も判定材料になり得る。
出典:LPGA(2) / USGA(2・3) / The R&A(2)
関連記事
「遠い人から」なのに、先に打っていい? ルールがレディーゴルフを勧める理由
3行まとめ
- ゴルフの通常の打順は、ティーショット後ならホールから遠い球が先。
- それでもストロークプレーでは、規則6.4自身が安全なレディーゴルフを認め、勧めている。
- マッチプレーとの違い、2罰打になる例外、40秒推奨が「自動罰」ではない理由まで整理する。