あえて基準超えに作ったドライバー
GOLF DNA編集部🌐

3行まとめ
- 2019年のテーラーメイドM5/M6は、量産ばらつきを見込んで反発を安全側へ落とすのではなく、まず規則上限を超える側に作り、全ヘッドを個別測定。
- 必要に応じて0〜約2gの樹脂を注入し、適合範囲へ戻した。
- 違反クラブを売る話ではなく、製造ばらつきを一台ずつ校正する品質管理だった。
2019年、テーラーメイドのM5とM6には、一見すると妙な作り方が採用された。
ドライバーヘッドを最初から規則の安全側に収めるのではなく、いったん反発性能の基準を超える側に作る。そして完成したヘッドを一つずつ測り、必要な量の樹脂を注入して適合範囲へ戻す。
「基準超えに作る」と聞けば、違反クラブを売ったようにも聞こえる。実際は逆だ。出荷前の個体差を一つずつ測って消し込み、規則限界へ近い範囲にそろえるための製造工程だった。
まず、何を測っていたのか
当時の規則で反発性能を見る指標の一つが、フェースの柔軟性を振り子式の装置で測るCTだった。
2019年の米国ゴルフ協会の測定手順では、基準値は239マイクロ秒。そこに18マイクロ秒の測定許容があり、257マイクロ秒を超えると不適合として扱われる境界になる。
量産品には、どうしても製造ばらつきが出る。もし全ヘッドを測らずに出荷するなら、最も反発が高く出る個体まで規則内に収めるため、設計値を限界より低い安全側へ置くのが分かりやすい。
M5/M6は、その考え方を逆にした。
基準超え側に作り、あとから一つずつ戻す
2019年の米男子ツアーの取材でテーラーメイドの開発責任者は、M5/M6をまず規則限界を超える側に製造し、完成した各ヘッドを測定したうえで、必要に応じて0〜約2gの樹脂を注入し、257マイクロ秒未満へ調整すると説明している。
M6の公式ページでも、すべてのヘッドを個別に速度測定し、調整用の樹脂を注入して反発性能を規則限界近くへ校正すると説明している。
注入量は全個体で同じではない。測った結果に応じて必要量を変える。公開資料では、測定結果から何g入れればCTが何マイクロ秒下がるのかという内部の計算式や工程許容差までは明らかにされていない。
ここで面白い数字がある。M6の公式説明によると、樹脂を注入する必要がなかったヘッドは約0.3%だった。
これは「市販品の大半が違反だった」という意味ではない。樹脂を入れる前の製造段階で調整が不要だった個体が約0.3%だった、という話だ。各ヘッドを測定し、必要な個体を調整したうえで適合品として出荷する工程と、市販時の適合性は分けて考える必要がある。
狙いは、量産ばらつきを安全余白で吸収しないこと
この方式の核心は、樹脂そのものより品質管理の向きにある。
製造ばらつきを見込んで全製品を規則限界から遠ざけるのではなく、まず限界を超える側に作り、実測値を見て一つずつ戻す。そうすれば、個体差を大きな安全余白でまとめて吸収するのではなく、個体ごとの校正で扱える。
つまりテーラーメイドがM5/M6で採用したのは、「設計値だけで全数を管理する」方法ではなく、「完成品を全数測定して最後に合わせ込む」方法だった。
この考え方は1年で終わらなかった。2020年のSIM、SIM Max、SIM Max-Dでも、公式ページは各ヘッドを個別に校正し、樹脂注入によって規則上の速度限界近くへ合わせる仕組みを説明している。
だからといって、何ヤード伸びるかは別問題
ここから「この方式なら必ず飛ぶ」とまでは言えない。
今回の資料で確認できるのは、全ヘッドを個別測定し、製造ばらつきを樹脂注入で校正して規則限界近くへそろえる工程が採用され、翌年のSIMにも継続したことだ。市販品のCT分布が実際にどこまで狭くなったかを示す独立した大規模検証や、一般ゴルファーの飛距離が何ヤード増えたかを示す材料は確認できない。
M5/M6が面白いのは、飛距離の宣伝文句よりそこにある。
量産ばらつきを避けるために性能を最初から低く置くのではなく、あえて基準超え側から始め、完成した一つ一つを測って適合範囲へ戻す。2019年のM5/M6は、規則限界と量産のばらつきを両立させるために、品質管理そのものを逆向きにしたドライバーだった。
出典:TaylorMade 技術情報(2・3) / PGA TOUR / USGA / The R&A
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