セベのボールは車の下にあった
車の下からバーディ。ライバルには秘密の技を、若い選手には助け舟を。
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セベ・バレステロスの物語を聴く
約3分46秒 · 一人語り

セベ・バレステロス(2006年7月19日、全英オープン練習日)
写真:Peter / 出典 / CC BY-SA 2.0
掲載用に縮小・WebP変換。写真の構図は変更していません。
欧州男子ツアー通算50勝、メジャー5勝。セベ・バレステロスは、大胆な攻めと創造的なショートゲームで観客を魅了し、欧州ゴルフを世界へ押し上げたスペインの名手である。
全英オープンの優勝を争っている男のボールが、駐車場にある。しかも、停めてあった車の下だ。
1979年、英国のロイヤル・リザム・アンド・セントアンズ。最終日の16番で右へ曲げたのは、22歳のスペイン人、セベ・バレステロスだった。
優勝を目前にした大ピンチ。ところが、ここからセベはスコアを伸ばしてしまう。
セベは無罰の救済を受け、ドロップした球をグリーンへ運んだ。そして約6メートルのパットを沈める。駐車場へ打ち込んだホールを、バーディで上がったのだ。
そのまま初めての全英優勝をつかむと、表彰の場で、ラフからの腕前についてこんなことを言った。
「ラフからはうまく打てる。たっぷり練習しているからね」
自分が曲げたことまで、笑いの種にしてしまう。
浜辺と空き缶のゴルフ場
セベは、子どもの頃、スペイン北部の浜辺で、短くした3番アイアンを使ってゴルフを覚えた。長い距離を打つためのクラブである。
家の裏の野原には、小さなコースまでつくった。カップはトマトの空き缶。旗は棒に結んだハンカチ。本人は自伝で、少年時代に何時間もアプローチやパットを練習したと振り返っている。
道具も場所も、あるものを使う。空き缶を置けば、そこが狙う場所になる。
あの駐車場のバーディも、単なる度胸の産物ではなかった。
1979年の全英を前に、先輩の全英王者、ロベルト・デ・ビセンソから助言を受けていた。ドライバーで遠くへ運べば、ラフに入ってもグリーンが近くなる。セベの腕なら、そこから勝負できるという考え方だ。
曲がるから、ドライバーをしまう。そういう判断もある。だが、セベには、近くまで行けば何とかできるという切り札があった。
最終盤になってもドライバーを握った男には、ちゃんと計算があったのである。
種明かしはしない
その技を、間近で見たライバルもいる。米国の名選手、ヘイル・アーウィンだ。
アーウィンは、セベがバンカーに埋まった球を打ったときのことを回想している。薄く当たったような音がしたというのに、出てきた球にはスピンがかかり、ぴたりと止まった。
どうやったのか。尋ねたが、セベは教えてくれなかったという。
あれほど鮮やかに打っておいて、種明かしはしない。見ている側には魔法でも、打つ本人には、ライバルにそう簡単には渡せない技がある。
若い選手のバッグにも目を向ける
ところが、若い選手には、こんなことをしていた。
スペインの選手、ホセ・マヌエル・ララは、1996年にセベと練習ラウンドをしたときの出来事を語っている。
セベはララのバッグに目を留め、ボールが必要かと尋ねた。ララが必要だと答えると、ゴルフ用品メーカー、タイトリストのトラックへ連れていった。
そして、スタッフに若い選手を紹介する。
「彼はスペインゴルフの未来だ」
今後、彼に必要なものが行き渡るようにしてほしい。そう頼んだという。
アーウィンには、打ち方を明かさなかった。ララのためには、メーカーに口を利いた。
どちらも、セベだった。