2007年ヤマハまで遡った特許戦争
GOLF DNA編集部🇺🇸

3行まとめ
- 2017年、PXGはテーラーメイドのP790を巡り11件の特許侵害を主張した。
- 翌年、争いは日本の2007年ヤマハ「inpresX 425V」とカタログの真正確認にまで遡る。
- だが、その探索は特許無効の確定ではない。
2017年9月、PXGはテーラーメイドのP790を巡って特許訴訟を起こした。裁判所資料で確認できる最終的な争いは11件の特許に及んだ。
それだけなら、ゴルフ用品では珍しくない知財紛争に見える。ところが翌2018年、争いは米国から日本へ飛ぶ。テーラーメイド側が証拠として調べようとしたのは、ヤマハの2007年製「inpresX 425V」と当時のカタログだった。
なぜ、10年前の日本製アイアンが米国のP790訴訟に出てきたのか。答えは、特許で守れる「新しさ」の境界を巡る争いだった。
争点は「中空アイアンかどうか」だけではない
11件の特許で繰り返し現れた技術要素は、内部空洞、中空ボディ、フェースの厚さ、弾性のある樹脂による充填・支持・接着、外周や下側への重量配置などだった。
重要なのは、これらが単なる製品の特徴一覧ではなく、特許の請求範囲をどう読むかという争点だったことだ。
つまり、「どちらも中空だから同じ」「樹脂が入っているから真似した」という話ではない。どの構造を、どんな組み合わせと条件で権利として囲えるのかが問題だった。
2018年4月の共同のクレーム解釈資料にも、内部空洞、フェース厚、弾性材料による充填・支持、重量配置などの言葉が繰り返し現れる。だが、これは侵害が確定したという意味ではない。裁判所で、言葉の境界を整理していた段階だ。
そこで2007年のヤマハが出てきた
2018年8月、米連邦裁判所は、テーラーメイド側が日本で証拠を得るための手続きを認めた。
対象になったのが、ヤマハの「inpresX 425V アイアン」と2007年春のカタログだった。
テーラーメイド側が求めたのは、製品やカタログが本物であること、いつ公開・販売されていたのかを確かめるための材料だ。特許の有効性を争う際、それ以前に似た技術が公に存在していたかどうかは重要になる。
ここで一番誤解しやすい。
ヤマハの資料が調べられたことと、「ヤマハが先に発明してPXGの特許を無効にした」ことは同じではない。
裁判所の2018年命令は、ヤマハ資料を潜在的な先行技術として調べるための証拠取得を認めたものだ。その命令自体が、PXGの特許を無効と判断したわけではない。さらに、425Vが11件のうちどの個別請求項へ具体的に対応するかも、この命令だけでは確定できない。
それでも2007年の日本製アイアンまで遡ったことには意味がある。争いの焦点が、P790とPXG製品の見た目の似方ではなく、「この構造は本当に新しかったのか」という時間軸にまで広がったからだ。
決着は判決ではなく相互ライセンスだった
争いは2019年2月、判決ではなく和解で終わった。
PXGとテーラーメイドは係争中の特許紛争を解消し、双方が特定の特許について相互ライセンスを得たと共同発表した。詳しい条件は非公開だった。
米国特許商標庁の審判手続も和解後に終結した。終結命令には、対象となった11件を巡る各手続で最終的な本案判断は出ていなかったと記されている。
だから、この一連の争いから「P790がPXG特許を侵害した」「PXG特許はヤマハの先行技術で無効になった」という最終結論を作ることはできない。
確定したのは、訴訟が終わり、双方が一定の特許を相互利用する関係で合意したこと。どの特許を、どんな条件で使えるのかは公表されていない。
2026年にも残る「中を埋める」設計
面白いのは、法廷で争われた設計思想そのものが製品から消えたわけではないことだ。
2025年のP790は、内部材料として「SPEEDFOAM AIR」を使うとテーラーメイドが説明している。2026年のPXG 0311 GEN8も「QuantumCOR」と呼ぶ内部ポリマーを採用している。
もちろん、これを2019年の相互ライセンスの結果だと結びつけることはできない。ライセンス条件は非公開だからだ。
一方、PXGは2026年9月時点の知的財産ページで、P790訴訟に登場した11件すべての米国特許番号を自社の特許一覧に掲載している。これもPXG自身による権利表示で、独立機関が2026年に11件すべての有効性を新たに認定したという意味ではない。
現在の両社製品を見て言えるのは、中空構造と内部材料を使ってフェースや重量配分を設計する発想が、いまも製品開発の一部に残っているというところまでだ。
特許戦争が見せたのは「新しさ」の境界だった
この訴訟の面白さは、どちらが勝ったかでは終わらない。
2017年には11件の特許を巡る大型訴訟として始まり、2018年には証拠探索が2007年のヤマハ製品にまで遡った。そして2019年、最終的な侵害・無効の本案判断を残さず、相互ライセンスで終わった。
中空、薄いフェース、内部充填、重量配置。現代アイアンでは見慣れた言葉でも、特許では「いつから存在したか」「どんな組み合わせなら新しいのか」「どこまで権利として囲えるのか」を一つずつ分けなければならない。
P790特許戦争で2007年のヤマハが突然重要になったのは、その境界を探すためだった。
争われたのは、単に似たアイアンを作ったかどうかではない。
「新しい技術」と呼べる線を、どこに引くかだった。
出典:dockets.justia.com / govinfo.gov / prweb.com / pxg.com / taylormadegolf.jp / ptacts.uspto.gov(2) / jp.pxg.com
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