バックスピンなのに揚力が下向き
GOLF DNA編集部🇺🇸

3行まとめ
- バックスピンをかけたゴルフボールは、いつも上へ浮くとは限らない。
- 2020年の実球実験では、市販球3種すべてに低速・低回転域で下向きの揚力が確認された。
- 発生した球速・回転数、ディンプル形状による差、実戦へ広げて言える範囲を追う。
バックスピンがかかったゴルフボールは、いつも上向きに押される。空力の基本としては、そう考えたくなる。
ところが2020年、実物の市販球を静止した空気の中で飛ばした実験で、揚力の向きが逆になる領域が確認された。いわゆる「逆マグナス効果」だ。
研究で使われたのは、当時のタイトリスト プロV1、キャロウェイ クロムソフト、ブリヂストン B330-RXの3種。プロV1は円形352個、クロムソフトは六角形332個、B330-RXはデュアル形状330個と、ディンプル形状が異なる。研究チームはそれぞれに回転を与えて射出し、軌道上3地点の位置と速度から抗力と揚力の係数を求めた。著者らは、実物のゴルフボールを静止空気中で飛ばして逆マグナス効果を示したのは、この研究が初めてだとしている。
起きたのは時速66〜93キロ前後の領域
3種すべてで逆向きの揚力が現れたのは、レイノルズ数がおおむね5万〜7万、1分あたり750〜2250回転の領域だった。
レイノルズ数は、そのままではゴルファーに分かりにくい。原著の条件とゴルフボールの規則上の最小直径42.67mmを使って換算すると、この範囲は球速およそ18.4〜25.8m/s、時速では約66〜93km/hに相当する。
これは原著が各球の実測直径と球速を一覧で示した値ではなく、実験条件からの概算だ。それでも、著者らが「ロングドライブでは一般的ではない」とした理由は見えてくる。確認されたのは、ドライバーの高速域ではなく、比較的低速・低回転の領域だった。
同じ逆向きでも、3種類で強さが違った
さらに面白いのは、逆向きの揚力が出るかどうかだけでなく、その強さも球によって違ったことだ。
レイノルズ数6.5万の比較では、キャロウェイ クロムソフトが最も強い逆マグナスを示し、タイトリスト プロV1が最も弱かった。最小の揚力係数は、円形ディンプルの球で約-0.10、六角形ディンプルの球で約-0.15。符号がマイナスになるほど、通常とは逆の下向きの揚力が強いことを示す。
つまり、この実験では「バックスピンしている」という条件だけで力の向きが決まっていない。球速と回転数に加え、表面のディンプル形状によって逆向きの力の出方が変わっていた。
手がかりは、抗力が急に変わる速度帯
測定結果では、各ボールで抗力が急変する領域の傾きと揚力係数に強い関係があり、相関の決定係数は0.87だった。
研究者らはその仕組みを、ボール表面を流れる空気の状態が上下で異なり、空気が表面から離れる位置に差ができることで、通常と逆向きの揚力が生まれると解釈している。ディンプル形状が違えば抗力の急変の仕方も変わり、それが3種類の差につながったという説明だ。
ここは測定事実と推定を分ける必要がある。実験で直接測ったのは飛行中の位置・速度から求めた抗力と揚力、そして抗力の急変域で、ボール表面の空気の流れ自体を直接可視化したわけではない。
チップでは起こり得る。でも「何ヤード沈む」は分からない
著者らは、逆マグナス効果はロングドライブでは一般的ではなく競技への影響も小さい一方、グリーン周りの短いチップのような低速域では起こり得るとしている。
ただ、ここから「チップが何ヤード短くなる」とまでは言えない。この研究はセンサー間3.81mの短い飛行から揚力係数を求めたもので、チップショット全体の最高到達点、キャリー、着弾位置の差を直接測った実験ではないからだ。
今回確認した公開文献では、2021年以降に同じ市販球条件を独立して再現した追試も特定できなかった。さらに、試験球は2020年の原著に記載された当時の3モデルであり、現在販売されているボール全体へそのまま広げることもできない。
それでも、この実験が示した一点は明確だ。バックスピンだから揚力は必ず上向き、とは限らない。少なくとも実測された低速・低回転域では、球速、回転、そしてディンプル形状の組み合わせによって、揚力の向きそのものが逆転することがある。
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